~100万円の工事に30万円の補助金が出る場合〜窓リノベを例として
リフォーム補助金と問題の所在
住宅省エネキャンペーンの一つの柱である「先進的窓リノベ2025事業」は、高断熱窓へのリフォームに対して国から補助金が支給される制度です 。この制度では、住宅のリフォーム発注者(施主)が補助金の本来の受益者となりますが、申請手続きは施主自身では行えません 。
代わりに、事前に登録された施工業者(「窓リノベ事業者」)が施主に代わって申請を行い、補助金を受領して施主に還元する仕組みになっています 。
いわゆる「代理受領」の形態で、施工業者が窓口となって補助金を受け取り、施主の負担軽減に充てることが特徴です。
こうした代理受領の仕組みは、消費者の事務能力に左右されず、利用者の間口を広げて補助金のハードルを下げる効果があるとして、住宅〇〇ポイントなどで活用され、この方式が浸透しつつあるように感じます。
ところで、この仕組みにおいて、以下のような論点が生じます。
- 補助金の受領主体と性質: 補助金は名目上誰に交付されたものとみなすべきか。施工業者が受け取りますが、実質的には施主のための金銭であり、施工業者は便宜上の受け取り役に過ぎないと位置付けられるのか。
- 補助金と請負契約金額の関係: 補助金は工事請負契約の代金(消費税込み)とどのように位置づけられるか。契約金額に含めるべきものなのか、それとも契約代金とは別個の概念として整理し、会計処理上・税務上区別できるのか。
- 「共同事業者」の定義: 制度上用いられる「共同事業者」という用語との関係で、施工業者が補助事業の共同実施者とみなされるのか否か(補助金の受益権限に関わる位置づけ)。
補助金は「施主のもの」
まず大前提は、国や自治体からの補助金は、リフォーム工事をした施主(事業主)に交付されるお金ということ。
施工会社が代理で受け取ることはあっても、施工会社の売上ではなく、施主のための支援金です。
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消費税は工事代金全体にかかる
消費税は工事の「役務提供」に対して課税されます。
したがって、課税前工事金額100万円であれば、消費税は必ず10万円。合計110万円が工事に対する一次的な請求額となります。
補助金があるからといって、消費税が減ることはありません。補助金は不課税収入(税対象外)ですが、工事代金自体は全額が課税対象だからです。
ここが誤解のポイントです。不課税という言葉に押されて、消費税課税前合計から、補助金を差し引くことをしていませんか?
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代理受領方式の正しい請求書例
補助金分を差し引いて施主に請求する場合でも、消費税は減りません。
工事代金(税抜) 1,000,000円
消費税(10%) 100,000円
合計(税込) 1,100,000円
▲補助金充当額 ▲300,000円
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施主請求額合計 800,000円
👉 請求額は80万円ですが、消費税は正しく10万円を含んでいます。
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よくある誤解(誤りの例)
工事代金(補助金控除後) 700,000円
⇒1,000,000-300,000円
消費税(10%) 70,000円
請求額合計 770,000円
👉 これは「補助金を値引き扱い」にしてしまった誤りです。
補助金は値引きではなく、第三者(国)が一部を肩代わりして払ってくれるお金。
したがって、この処理では消費税3万円分が不足してしまいます。
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施主の最終負担
工事代金:1,000,000円
消費税:100,000円
補助金:▲300,000円
= 実質負担は800,000円
👉 代理受領方式でも全額請求→返金方式でも、最終的な施主負担は同じになります。
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「当事者間で決める」という説明の不明確さ
ここで注意したいのが、「窓リノベ」などの制度解説にしばしば登場する文言です。
「補助金の扱いは当事者間で決めることができる」
とされていますが、
選べるのは「代理受領方式(充当)」か「全額請求→後日返金方式」かという2つの方法だけ。
補助金があるからといって、課税前金額そのものを減らしてしまうのは誤りです。
つまり、工事金額100万円に対しては、必ず10万円の消費税が発生します。
補助金は工事代金そのものを縮小するのではなく、「施主の支払いを一部肩代わりする資金」にすぎないのです。
なお、やや紛らわしいですが、この補助金申請手数料を別途計上する場合は、この金額には消費税がかかります。
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不明確さが混乱を呼んでいる
実務の現場では、この「当事者間で決める」という説明が不明確なために、
- 補助金を値引き扱いして消費税を減額してしまう誤った処理
- 施主からの、補助金分の消費税が返ってこないという誤解
といった混乱が実際に起きています。
だからこそ、契約書や請求書では次の点をはっきり明示することが重要です:
1.工事代金は補助金を差し引かない総額を基準とする。
2. 消費税はその総額に対して計算する。
3. 補助金は「充当」か「返金」で施主に還元される。
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結論
補助金は施主に帰属するお金であり、施工会社は代理受領して精算する立場にすぎない。
消費税は工事代金全体に対して課税され、補助金で消費税が減ることはない。
実際に選べるのは「充当する」か「返金する」かだけであり、課税前金額から補助金を差し引くのは誤り。
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「補助金で支払いは減るが、消費税は減らない」
そして契約書・請求書できちんと明示することが、施主にとっても施工会社にとっても安心につながります。
なお、本コラムは考え方を示したに過ぎず、個別事象について一切の責任を負いません。争点となる場合は、税理士等の専門家にご相談ください。
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補助金取扱い条項(参考例)
(補助金の帰属)
1. 本工事に関し交付される国又は地方公共団体の補助金(以下「補助金」という)は、発注者(以下「甲」という)に帰属するものとする。
2. 施工者(以下「乙」という)は、甲の委任に基づき補助金を代理申請・代理受領する場合があるが、乙は補助金を自己の収益として取り扱わず、甲に還元する義務を負う。
(補助金の充当方法)
1. 補助金の還元方法については、甲乙協議のうえ、次のいずれかによる。
① 補助金相当額を工事代金に充当し、甲への請求額から控除する方法(代理受領充当方式)
② 工事代金の全額を甲に請求し、補助金を受領後、乙が甲に返金する方法(返金方式)
2. 甲乙は、前項いずれの方式を採用する場合であっても、工事代金の課税前金額及びこれに係る消費税額は補助金の有無にかかわらず変更されないことを確認する。
(消費税の取扱い)
1. 工事代金に係る消費税は、補助金によって減額されることはなく、契約金額(課税前工事費)を基準として算定する。
2. 乙は、補助金を理由として課税標準を減額することなく、適正に消費税を計上し、適格請求書等保存方式(インボイス制度)に則った請求書を甲に交付する。
(補助金に関する説明義務)
乙は、甲に対し補助金の取扱い及び消費税の課税関係について適切に説明し、甲が補助金の性質及び工事代金の消費税計算方法を誤解しないよう努めるものとする。
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